子【ねずみ】

ねずみといえば、あまり良いイメージをお持ちの方は、少ないかもしれませんね。

しかしねずみは、繁殖力が強く、ここから「鼠算(ねずみざん)」という言葉が生まれたりもしています。してみると、昔の人は、ねずみに対して「子孫繁栄」という大きな期待をこめていたのかもしれません。

また、「初子(はつね)祭り」などの名称で、お正月に各地で行われているお祭りは、大国主命(おおくにぬしのみこと)がねずみに一命を救われた故事に基づくもの。大国主命は大黒天と同一視され、福の神(七福神のひとつ)として親しまれています。
こんな逸話にも、ねずみが案外、私たちの暮らしの中で愛されてきた証を感じるのではないでしょうか?

丑【うし】

牛は大昔から、人間の営みに欠かすことのできない役割を果たしてきました。食用だけではなく、農耕の重要な役畜にもなりました。

中国の殷の時代には、牛の肩甲骨に生じるひび割れで占いもしていました。このように人間にとって重要な家畜であったことから、牛は生贄(いけにえ)に供されることもしばしばでした。

こんなところから牛が選ばれたとしても不思議ではありませんね。また、紐(ひも)という字のつくりに、この丑の字が見えます。「結ぶ」「つかむ」などの意味を込めたとも考えられています。

寅【とら】

虎は、子をとても大切に育てるところから、大切にして手放すことができない秘蔵品、貴重なものを、「虎の子」といいます。また、「虎穴にいらずんば虎子を得ず」という諺は、このように大切な虎の子を手に入れようとするならば、多少の危険を恐れてはならないとの教えです。

また「寅」の字は、“万物が演然としてはじめて地上に生ずる”ことを意味し、ここから寅の字ははじまりを意味するとされています。虎には魔よけの意味もあり、全国各地で作られている張子の虎は、そのような願いをこめたものでしょう。

正月寅の日に行われる初寅参り。毘沙門天(びしゃもんてん)をお参りしますが、毘沙門天は多聞天(たもんてん)ともいい、これは財宝を守る神様です。

卯【うさぎ】

昔の中国では、白兎は瑞兆(非常に良いことのある兆し)として称えられていました。

「白兎は寿千年、五百に満つれば則ち色白し」
「王者の恩、耆老に加われば、則ち白兎あらわる」
などと書物に記されています。
このような点からもめでたい動物と親しまれたのでしょう。

またウサギの習性として家族で行動するため、家族の仲の良さの象徴と考える例もあるようです。さらに、その跳躍力から飛躍をイメージすることもありますね。

辰【たつ】

十二支の中で、唯一想像上の動物です。中国では麒麟(アフリカに住むキリンとは異なります)、鳳凰、霊亀と並び、霊獣とされてきました。しかし、中国大陸には恐竜の化石がたくさん発見されていることから、かつての中国の人々が、この化石を見て「龍」に違いないと思ったのかもしれません。

このため、他の動物たちと並んで十二支の仲間入りを果たした・・・と、そんな説もあるようです。

もちろん龍は瑞兆であり、さらには君主にも喩えられました。このため皇帝のシンボルとしても龍の文様がさかんに使われるようになりました。

巳【み】

中国でも、また日本でも執念深いことのたとえとして用いられることの多い蛇。あまり気持ちのよい動物とは思えません。しかし、執念深いというのは恩を忘れない、とも同義で、隋の王が傷ついた蛇を救うと、夢枕に蛇が現れて財宝を捧げていったなど、蛇にまつわる報恩のお話は多数伝わっています。

なお、日本では弁財天が蛇の形をした神として水辺に祀られますが、弁財天は蓄財の神として信仰されています。

また、蛇は忌み嫌われることも多いのですが、一方では神の使いとされたり、蛇は成長の過程で脱皮をするため、これを復活と再生の象徴と受け止めたりする考え方も、多くあります。

午【うま】

古くから「天を行くは龍 地を行くは馬」などといわれ、馬ほど人の役に立ち、人の暮らしに深く関わる動物は無いと考えられてきました。

日本でも古くから祈願の際などに、寺社に馬を奉納する慣わしがありましたが、これは後に板に描いた馬の絵に代えられるようになりました。庶民にとって馬は高額であったため、また寺社でも馬の世話が大変であったためでしょう。これが「絵馬」の起源となりました。

寺社によって絵馬は、家内安全、五穀豊穣から受験、縁結びなど、さまざまな願いを叶えてくれる風習として定着しています。二月初めの午の日に行われる行事の「初午」は、主として豊作が祈願されています。

未【ひつじ】

羊は犬に続いて家畜となったといわれるほど、人間との付き合いは長いものとなっています。キリスト教の聖書の中には、羊を生贄(いけにえ)とする記述がしばしば見られます。
中国でも同様に羊は牛、豚、犬などと並んで生贄に捧げられてきました。それほど神に近い存在として、また神聖なものとして考えられていたようです。

また、羊の字は、祥、善、美、義などの一部として使われていますが、これらの文字はいずれも神へのかかわりを示したものと考えられています。

十二支の八番目に当てられている未、この字の本来の意味は、「味」。またその象形から枝葉の茂る様を表しているとも言われています。

申【さる】

その姿かたちや動作が人間に似ているため、昔話や伝承に数多く取り上げられてきた猿。
中国の四大奇書で知られる「西遊記」の主人公。またわが国の五大御伽噺のひとつ「猿蟹合戦」の主人公。いずれも広く親しまれてきた動物であることがうかがえますね。

正月に行われる猿回しは、中国から伝来したといわれていますが、かつて猿は厩(馬小屋)の守護神とされ、馬の厄除けとして猿飼が祈祷して回ったのが起源といわれています。ここから猿の芸が独立し、大道芸として発展していったようです。

当時、馬は生活や神事に無くてはならない大切な動物であり、その守り神として霊力を持つ猿もまた、広く崇められたのです。

酉【とり】

ニワトリはすでに紀元前3000年前、インドあたりで家畜化されたようです。紀元前1000年頃に成り立ったバラモンの聖典には「夜明けを告げる鳥として尊重されていた」とあります。

日本へは中国を経て渡ってきたとみられていますが、同様に朝を告げ、またその肉や卵が食用に供されて、暮らしの中でも大切にされてきました。

また中国では正月の1日から7日まで、それぞれ動物を当てはめています。1日は鶏、2日は狗、3日は猪、4日は羊といった具合です。つまり元旦は鶏の日であり、鶏の絵を門扉などに飾り、鶏を殺さないという習慣があります。

戌【いぬ】

人間にとってもっとも古い家畜、犬。桃太郎についていった動物たちの中でも一番に家来となったのは、やはり犬でした。人間がこれほど親しみを感じる動物は、あまりいないのかもしれません。

そんなところからか、昔は子どもが生まれると、犬張子を贈りました。また三月の節句の飾り、お宮参りの際の贈り物にもなりました。また、犬は安産で多産とされていますが、それにあやかって妊婦が妊娠五ヶ月の戌の日に岩田帯を巻く風習は今も残っています。

さらに戌亥の方角(西北)は、丑寅の方角(東北)が鬼門であるのに対して、神門とし、宝物を飾る、福の神を祀るなど、重視しました。

亥【い】

わが国でいう猪は、豚の祖先で、猪が家畜化されて豚になったといわれています。中国で、この猪という字はいわゆる豚を指すのだそうです。

中国やインドなどでは新石器時代、農耕が盛んになり始めた頃に、家畜化されたようです。 中国の故事では猪は長寿でしかも多産とされ、ここからその像を長寿の願いの品として贈ることもありました。

また亥子餅(いのこもち)というのは、古くは宮中で作られ、猪にあやかって健康であることを願って食べたもの。その後、今も主として関西地方では田の神に収穫のお礼をする際に食べるものとして残されています。